世界一周客船のトイレの水はどこへ行く?
――108日間、数千人分の排水とゴミの行方

2027年4月、私はピースボートの世界一周クルーズに乗船する予定です。
約108日間にわたって海の上で生活することになります。
そこで、ふと疑問に思いました。
「船でトイレを流した水は、いったいどこへ行くのだろう?」
大型客船には何千人もの乗客・乗組員がいます。
毎日、トイレを使います。
シャワーを浴びます。
洗面所を使います。
大量の食事を作り、皿を洗い、洗濯もします。
そして毎日、大量の生ゴミやペットボトル、缶、紙なども出ます。
これを108日間続けたら、ものすごい量になります。
まさか全部、海へ流しているのでしょうか。
調べてみると、そこには私が想像していた以上に大掛かりな「海の上の下水処理・ゴミ処理」の仕組みがありました。
船のトイレを流すと、そのまま海へ出るわけではない
まず、一番気になるトイレです。
大型客船でトイレを流したからといって、その排泄物がそのまま船底から海へ出ていくわけではありません。
国際航海をする一定規模以上の船舶には、国際海事機関(IMO)のMARPOL条約によって、汚水処理装置、粉砕・消毒装置、または汚水を貯めるタンクなどを備えることが求められています。
つまり大型客船の中には、簡単に言えば、
「小さな下水処理場」
があると考えると分かりやすいでしょう。
トイレから出た汚水は一般に「ブラックウォーター」と呼ばれ、集められて船内の設備で処理されます。
シャワーや洗面所からも大量の水が出る
船で出る排水はトイレだけではありません。
例えば、
・シャワー
・洗面台
・洗濯
・厨房
・清掃
などからも大量の生活排水が発生します。
こうした排水は一般に「グレーウォーター」と呼ばれます。
世界一周客船は、ある意味では「海の上を移動する一つの町」です。
数千人が100日以上暮らしているわけですから、水の管理は船の運航にとって非常に重要なのです。
処理した水は最終的にどうなる?
ここが今回調べて最も興味深かったところです。
私は当初、
「汚水は全部船のタンクに貯めて、港に着いたら陸上で処分するのではないか」
と思っていました。
しかし、それだけではありません。
国際的なルールを守ったうえで、航海中に海へ排出することも認められています。
IMOのMARPOL条約附属書IVでは、承認された汚水処理装置を運転している場合など、一定の条件で処理水を海へ排出できます。
また、承認された装置で粉砕・消毒された汚水については、原則として陸岸から3海里(約5.6km)を超えた海域、未処理の汚水についても厳しい条件のもと陸岸から12海里(約22km)を超えた海域で排出できる規定があります。
未処理汚水の場合には、船が航行中で一定以上の速力で進んでいることなどの条件もあります。
したがって、
「客船は汚水を一切海へ流さない」
というのも正確ではありません。
一方で、
「トイレの汚物をそのまま海へ垂れ流している」
というイメージも正確ではありません。
基本的には国際ルールと船舶の処理設備に基づいて管理されているのです。
海に流してはいけない場所もある
さらに、どこの海でも同じ条件というわけではありません。
環境保護上、特に厳しい規制が設けられている海域があります。
例えば、MARPOL附属書IVではバルト海が旅客船の汚水について「特別海域」とされています。
ここでは旅客船の汚水排出は原則として禁止され、排出する場合には、窒素やリンの除去など追加基準を満たす承認済みの高度な汚水処理設備が必要になります。
つまり世界一周の船は、
「今、船がどこの海域を航行しているのか」
によっても排水の扱いを変える必要があるわけです。
では、船で出たゴミはどうする?
次に気になったのがゴミです。
数千人が毎日3食食べれば、大量のゴミが出ます。
例えば、
ペットボトル、ビニール袋、食品包装、紙、缶、瓶、段ボール、生ゴミ――。
これらを全部海へ捨てることは、もちろんできません。
IMOのMARPOL条約附属書Vでは、船舶から出るゴミについて原則として海洋への排出を禁止しています。
特に重要なのが、
プラスチックです。
プラスチック類の海洋投棄は禁止されています。
海に流れたプラスチックは長期間残り、魚や海鳥、海洋哺乳類などに大きな影響を与える可能性があるからです。
生ゴミなら海に捨ててもいいの?
ここは少し複雑です。
食品廃棄物については、プラスチックなどとは扱いが異なります。
MARPOLでは、食品廃棄物など一部について、船の位置、陸岸からの距離、粉砕の有無、特別海域かどうかなど、細かな条件を満たした場合に海洋への排出が認められることがあります。
つまり、
「船から出るゴミは絶対に何一つ海へ出してはいけない」
というわけでもありません。
ただし基本原則は、
「海はゴミ捨て場ではない」
ということです。
船内で分別・保管・処理し、必要に応じて寄港地の受入施設へ引き渡します。港側にも船舶からの廃棄物を受け入れる設備を整えることが国際ルール上求められています。
108日間のゴミは全部船に積んでいるわけではない
ここも私が誤解していたところです。
「世界一周なら、108日分のゴミをずっと船の中に積んでいるのか?」
というと、そうではありません。
船内ではゴミを種類ごとに管理し、減容・保管などを行い、寄港地で陸上の受入施設に引き渡すことができます。
一定規模以上の船では「Garbage Management Plan(ゴミ管理計画)」を備えることも求められています。
考えてみれば世界一周客船は何十もの港に寄港します。
人間だけが船から降りるのではありません。
食料や物資を積み込み、一方では船内で発生した廃棄物を適切に陸上へ渡していく。
こうした「船の裏側の物流」が、世界一周旅行を支えているのです。
ピースボートの船ではどうなっている?
私が乗船予定のピースボートクルーズでも、現在公式サイトでは「パシフィック・ワールド号」などが案内されています。
また、ピースボートが進める「エコシップ」構想では、さらに一歩進んだ環境対策が掲げられています。
エコシップでは、水と廃棄物をできるだけ循環させる「Closed Water Loop」「Closed Waste Loop」という考え方が示されており、排水を減らし、廃棄物から水、堆肥、肥料などを生み出して再利用する構想です。
トイレについても、1回の洗浄に使う水を1リットル未満に抑える計画が紹介されています。
世界一周客船も、単に「人を運ぶ船」から、エネルギー、水、廃棄物をどう循環させるかを考える「海上都市」へと変わろうとしているのかもしれません。
数千人が暮らす「海の上の町」
大型客船について調べていると、船を見る目が少し変わってきます。
豪華なレストラン、プール、劇場、客室――。
私たち乗客から見えるのは、そうした華やかな部分です。
しかし、その床下や船底近くでは、
トイレの汚水を処理する。
生活排水を管理する。
ゴミを分別する。
食料を保管する。
真水を確保する。
電気を作る。
そんな巨大なインフラが24時間動いています。
IMOによれば、現在のクルーズ船には乗客・乗員合わせて5,000人を超える人々が乗ることもあります。
そう考えると、大型客船とは、
「船」というより、海の上を移動する小さな町
なのかもしれません。
世界一周に乗ったら、自分の目で確かめたい
2027年、私は約108日間の世界一周へ出発します。
今回調べてみて、ぜひ船内で確認してみたいことが一つ増えました。
「この船では、私たちが毎日出している排水やゴミを実際にどう処理しているのだろう?」
可能なら乗組員の方にも聞いてみたいと思います。
そして実際に見聞きしたことを、このブログで紹介できればと思っています。
世界一周というと、どうしても、
「どこの国へ行った」
「こんな世界遺産を見た」
「こんな料理を食べた」
という話が中心になります。
しかし、約108日間も海の上で生活するのです。
水はどこから来るのか。
トイレの水はどこへ行くのか。
ゴミはどうなるのか。
食料はどう保存しているのか。
電気はどう作っているのか。
こうした「世界一周客船の舞台裏」を知るのも、船旅の面白さではないでしょうか。
私も実際に乗船したら、ぜひ確かめてみようと思います。
まとめ
今回調べて分かったことは、
大型客船は、トイレの汚物を何でもそのまま海へ垂れ流しているわけではない。
ということです。
船内には汚水を処理・保管する設備があり、国際ルールに従って管理されています。
一方で、基準を満たした処理水などについては、条件によって海洋への排出が認められています。
また、プラスチックなどのゴミを海へ捨てることは禁止されており、船内で管理したうえで寄港地の受入施設へ渡す仕組みがあります。
何千人もの人間が100日以上暮らしながら、世界中の海を航海する。
その生活を陰で支えているのが、
「水・排水・ゴミを処理する巨大な船内システム」
だったのです。
次に大型客船を港で見かけたら、私は豪華な客室やデッキだけでなく、その船底で24時間働いている「海の上の下水処理場」にも思いを巡らせることになりそうです。
今回の記事は、「全部海に垂れ流している」「全部陸上で処理している」のどちらにも寄らないよう、IMOの現行ルールに合わせて書きました。
