今日のニュース深掘り いつまで車を運転する?――75歳以上の運転技能検査と免許返納の現実

2026年9月4日
「あなたは何歳まで車を運転しますか?」
70代になると、この問いが急に現実味を帯びてきます。
高齢ドライバーによる交通事故が報道されるたびに、
「高齢者は免許を返納した方がいい」
という意見が出ます。
確かに、安全を考えれば運転能力が低下した人が運転を続けることには大きな危険があります。
しかし地方に住んでいる人にとって、
「免許を返納する=車を運転しなくなる」
という話だけでは終わりません。
病院へどうやって行くのか。
スーパーへの買い物はどうするのか。
趣味や友人との交流はどうするのか。
車を手放すことで生活そのものが変わってしまう人もいます。
今回は「高齢者は何歳まで運転すべきか」という問題を、75歳以上の免許制度だけではなく、免許返納後の生活、地方の交通、そして今後の日本社会まで含めて考えてみます。
75歳から免許更新はどう変わるのか
まず現在の制度を確認しておきましょう。
免許証の更新期間が満了する日の年齢が75歳以上になる人は、原則として「認知機能検査」を受けます。
検査では、記憶力や判断力などを確認します。
そして結果は、
「認知症のおそれがある」
または
「認知症のおそれがない」
のいずれかで判定されます。
「認知症のおそれがある」と判定されたからといって、その場ですぐに免許を取り上げられるわけではありません。
その後、医師の診断などが行われ、認知症と診断された場合には、所定の手続きを経て免許の取消しや停止となる場合があります。
75歳以上全員が「運転技能検査」を受けるわけではない
ここは非常に間違えやすいところです。
75歳以上になると全員が実際に車を運転して試験を受ける、という制度ではありません。
運転技能検査の対象となるのは、75歳以上で、免許更新前の一定期間に一定の交通違反歴がある人です。
例えば、
・信号無視
・速度超過
・一時停止などに関係する違反
・歩行者妨害
・安全運転義務違反
・携帯電話使用等
などが対象になります。
対象になった人は、実際に車を運転して、一時停止などの課題を行います。
第一種免許の場合は100点からの減点方式で、70点以上が合格です。
そして、この検査に合格できなければ免許を更新することができません。
深掘り① 本当に「75歳」が運転の分かれ目なのか
ここからが今回考えたい本題です。
75歳という年齢だけを見て、
「75歳になったら危険」
と考えるのは適切でしょうか。
実際には個人差があります。
70代でも運転能力が十分な人もいれば、それ以前から視力や判断力、身体機能などに不安が出てくる人もいます。
したがって、本当に見るべきなのは年齢そのものではなく、
「以前の自分と比べて運転がどう変わったか」
ではないでしょうか。
例えば、
「駐車が以前より難しくなった」
「車をこすることが増えた」
「右折のタイミングを迷うようになった」
「夜になると道路が見えにくい」
「知らない場所へ行くのが怖くなった」
「家族から運転を注意されるようになった」
こうした小さな変化が重要なサインになります。
事故を起こしてから、
「やっぱり運転をやめておけばよかった」
では遅いのです。
深掘り② 「運転する・返納する」の二択で考えなくてもいい
高齢者の運転問題では、
運転を続けるか、免許を返納するか。
この二つで議論されることが多いように思います。
しかし、その中間があってもいいのではないでしょうか。
例えば、
夜間は運転しない。
雨の日は運転しない。
高速道路には乗らない。
知らない土地には車で行かない。
病院とスーパーなど自宅周辺だけにする。
つまり、
「免許を返納する前に、運転する範囲を少しずつ縮小する」
という方法です。
また、現在は衝突被害軽減ブレーキなど一定の安全運転支援機能を備えた車に限定して運転できる「サポートカー限定免許」という制度もあります。
「まだ運転できるから今まで通り乗る」
から、
「まだ運転できるけれど、少しずつ安全側へ変えていく」
という考え方への転換が必要なのかもしれません。
深掘り③ 本当の問題は「返納した翌日」から始まる
免許返納について考えるとき、私はここが非常に重要だと思います。
免許を返納した人に、
「これで事故を起こす心配がなくなりました」
と言うだけでは問題は解決していません。
その翌朝、
「病院へ行きたい」
となったらどうするのでしょう。
スーパーへ買い物に行くには?
銀行へ行くには?
友人に会いに行くには?
地方では車が単なる移動手段ではなく、生活そのものを支えている場合があります。
つまり高齢ドライバー問題は、
「交通事故対策」であると同時に「高齢者の生活問題」
でもあるのです。
深掘り④ 車を手放すことで失うものは「移動」だけではない
さらに考えたいことがあります。
車がなくなれば外出する回数が減る人もいるでしょう。
買い物へ行かなくなる。
友人に会わなくなる。
趣味の集まりへ参加しなくなる。
外食しなくなる。
地域活動にも参加しにくくなる。
つまり失われる可能性があるのは、単なる「移動手段」だけではありません。
人との交流や社会参加まで減ってしまう可能性があります。
だから免許返納を考えるときには、
「車の代わりをどうするか」
だけではなく、
「これまでの生活をどう維持するか」
まで考える必要があります。
深掘り⑤ 松山市で免許を返納するとどうなる?
松山市でも運転免許証の自主返納制度があります。
運転に不安を感じるようになった人などは、自分の意思で免許を返納できます。
また、返納後には「運転経歴証明書」を申請することもできます。
松山市が2026年9月1日に更新した情報では、県内の協力事業者によって、
・タクシー料金の割引
・飲食料金の割引
・宿泊料金の割引
・電動自転車などの購入費用割引
などの特典があります。
ただし、以前実施されていた松山市独自の「運転免許返納サポート事業」は、2024年度で新規申請の受付を終了しています。
制度は変わるため、
「昔聞いた制度が今も利用できる」と思い込まないこと
も大切です。
深掘り⑥ 国も「返納後の交通」を大きな課題として考え始めている
これは今後を考えるうえで重要な動きです。
2026年8月、国土交通省は、地域公共交通について新たな市区町村向け認定制度を開始しました。
国が問題視しているのが「交通空白」です。
地方ではバス路線などの休廃止が相次いでいます。
その一方、高齢化による免許返納などで、車を運転できない人の移動需要は今後さらに高まります。
つまり、
「高齢者には免許を返納してほしい」
一方で、
「地方ではバスなどの公共交通が減っている」
という矛盾した状況が起きています。
ここを解決しなければ、高齢者の免許返納は進みにくいでしょう。
深掘り⑦ これから町内会や地域にも役割が出てくるのではないか
行政だけですべてを解決するのは難しいと思います。
これからは地域でも、
「病院へ行きたい人」
「スーパーへ買い物に行きたい人」
「車を運転できなくなった人」
をどう支えるか考える必要が出てくるでしょう。
例えば、
地域乗合タクシー。
デマンド交通。
買い物支援。
移動販売。
宅配サービス。
地域住民による移動支援。
町内会や老人会とタクシー事業者との連携。
こうした仕組みを組み合わせる必要があるのではないでしょうか。
もちろん住民が自家用車で他人を送迎する場合には、道路運送法や事故時の責任、保険などを十分確認する必要があります。
善意だけで始めるのではなく、安全で継続できる制度として作ることが重要です。
将来への影響① 「車がなくても暮らせる町」が重要になる
これから日本では高齢化がさらに進みます。
一方、地方ではバスや鉄道などの公共交通を維持することも難しくなっています。
この二つが同時に進めば、
「運転できない高齢者が増えるのに、代わりの交通手段も減る」
という問題が深刻になります。
そのため将来の高齢者対策では、
「何歳で免許を返納させるか」
だけではなく、
「免許を返納しても普通に暮らせる町をどう作るか」
が重要になるでしょう。
将来への影響② 車そのものも高齢者を助ける方向へ進む
もう一つの可能性が、自動車技術です。
衝突被害軽減ブレーキ、ペダル踏み間違い時の加速抑制、車線逸脱警報など、運転を支援する技術はすでに普及しています。
今後さらに技術が進めば、
「高齢になったら運転をやめる」
だけではなく、
「技術の助けを借りながら、安全に運転できる期間を延ばす」
という選択肢も広がるでしょう。
ただし、安全装置があるから事故を起こさないわけではありません。
最後に運転を判断するのは人間です。
技術を過信しないことも大切です。
70代のうちに一度やってみたい「車なし生活シミュレーション」
まだ元気に車を運転している人に、一つ提案があります。
紙に、
「もし明日から車に乗れなくなったら?」
と書いてみてください。
そして、
病院
スーパー
銀行
市役所
趣味
友人宅
旅行
へどうやって行くか考えてみます。
「バスで行ける」
「タクシーなら片道いくら」
「家族に頼める」
「ネットスーパーを利用できる」
「これは車がないと困る」
ということが見えてきます。
これを70代の元気なうちに一度やっておくだけでも違うと思います。
私たちが今から考えておきたい5つのこと
高齢者の運転問題について、今からできることを整理すると、
① 自分の運転能力の変化を客観的に見る
「まだ大丈夫」と思うだけでなく、家族の意見にも耳を傾けます。
② 運転する範囲を徐々に狭くする
夜間、雨天、高速道路、長距離などから減らしていきます。
③ 車の安全装備を見直す
次に車を買い替えるなら、価格やデザインだけでなく安全運転支援機能を重要な条件にします。
④ 免許返納後の生活を先に考える
病院、買い物、趣味などへの交通手段を調べておきます。
⑤ 家族と「いつまで運転するか」を元気なうちに話す
事故を起こした後ではなく、何も問題がないときに話しておくことが重要です。
まとめ――問題は「何歳まで運転するか」だけではない
75歳以上になると、免許更新時には原則として認知機能検査を受けます。
さらに一定の違反歴がある人には運転技能検査があり、合格しなければ免許を更新できません。
しかし、本当に考えなければならない問題はその先です。
「私は何歳まで運転するのか」
そして、
「運転をやめた後、どうやって生活するのか」
この二つはセットで考えなければなりません。
さらに社会全体では、
「高齢者に免許返納を求めるのであれば、返納しても安心して暮らせる移動手段を用意できるのか」
という問題があります。
高齢者の運転問題を本人だけの責任にしてはいけないと思います。
本人。
家族。
地域。
自治体。
公共交通事業者。
そして自動車メーカー。
それぞれが一緒に考える問題になっています。
「高齢者は危ないから車を降りるべきだ」
だけでは解決しません。
目指すべきなのは、
「運転できる間は安全に運転し、運転できなくなっても困らず生活できる社会」
ではないでしょうか。
高齢者の免許返納問題は、交通事故だけのニュースではありません。
これからの日本の地方、高齢化、公共交通、そして私たち自身の暮らし方を考えるニュースなのです。
