※ 銀行口座が凍結されるタイミングは、口座名義人の死亡時と銀行取引の中で認知症により、本人の判断能力 が著しく低下したことを銀行が知ることにより凍結される可能性があります。 認知症の人の銀行口座が凍結される理由は、① 口座や財産の悪用防止のため ② 自分で適切に財産管理ができないから ③ 詐欺などの事件に巻き込まれるのを防止するため などです。

今回は、認知症での口座凍結について未然に防ぐ方法、本人が認知症になり口座凍結された場合の解除方法について解説します。

  1. 認知症高齢者の現状
    認知症高齢者が保有すると推定される金融資産は、2020年で172.2兆円となり、家計保有金融資産額総額の8.6%です。同じく不動産は、79.9兆円で家計保有不動産総額の7.4%となりました。金融資産は2040年には約237兆円へ、不動産は約108兆円に増加する見込みです。
    内閣府が発表した令和3年版(2021年)高齢社会白書によると、日本の65歳以上人口は3619万人となり、総人口に占める割合(高齢化率)は28,8%で世界最高でした。さらに、2040年には3人に1人が65歳以上になると推計されています。また、経済協力開発機構(OECD)が発表する日本人の認知症有病率(病気を持っている人の割合)は2.33%で、OECDに加盟する先進国35カ国の中で最も高い数字です。さらには、2025年には65歳以上の5人に1人が認知症になるとの調査結果も出されています。このように、日本における高齢化社会および、認知症患者数の増加は世界と比較しても進んでおり、社会的な課題の一つとなっています。

2. 認知症での口座凍結を未然に防ぐ方法
(1) 家族で共有しておきたい確認情報
・銀行の口座は何口座あるのか
 →複数口座を持っている場合には、
  管理が大変ですので口座を一つにまとめるようにしましょう。
・口座リスト
・おおよその財産内容
・生活費などをどの口座からどのように支払っているか (振込、引き落とし)
・定期預金はあるか
・認知症になると発生するお金の問題
・金融機関で本人確認が年々厳しくなってきている問題

(2) 定期預金から普通預金に変えておく
定期預金のお金は、基本的に満期を迎えるまで引き下ろすことが出来ません。
定期預金を解約して、普通預金に変えておきましょう。
まとまったお金が必要な時に使えないリスクを考えて、検討してみましょう。

(3) キャッシュカードの暗証番号を聞いておく
ご本人にお金の管理が難しくなってきた場合、事前にキャッシュカードを預かって、暗証番号を聞いておく。それだけでも、対策になります。

(4) 代理人カードを作成する。
「代理人カード」 (家族カードと呼ぶ金融機関もあります)とは、預金者のキャッシュカードとは別に発行されるキャッシュカードを言います。
発行を受けられるのは、「本人と生計を共にする同居の親族」などのように、一定の関係がある親族に限定している金融機関が多いです。
「代理人指名手続き」とは、預金者が元気なうちに、口座から出金できる代理人を指名しておく手続きをいいます。代理人には、「2親等以内の親族」など一定の関係性を持つ者に限定されます。代理人カードによる場合と異なり、窓口での出金に限定されます。また、出金限度額が設定されます。
<メリット>
家族などの代理人がお金を出金できます。代理人であることが確認できれば、本人が窓口に出向く必要もありません。
<デメリット>
すべての金融機関で取り扱ってるわけではありませんので、検討する場合は事前に確認お願いします。
<費用>
利用するには手数料が発生します。一般的に、キャッシュカードの発行手数料は1,000円程度です。

[重要事項]
ご本人が認知症と診断されたとしても、直接に銀行が知ることはありません。
銀行が認知症と判断するとすぐに口座凍結します。ご本人を認知症と判断することとなってしまい、キャッシュカードが使えなくなった。
以下のようなケースがありますので注意しましょう。

  • 認知症の親を銀行の窓口に連れて行ったが、自分の名前や住所が言えなかった
    →結果的に認知症(判断能力がない状態)であることを銀行側に証明してしまうことになってしまった
  • 「認知症の親がいる」「最近親の物忘れがひどくなっている」と銀行の窓口の方に相談してしまう
    →銀行の担当者に認知症の疑いをもたれてしまい、本人確認できるまで手続きをストップされてしまった。

3. 認知症に備える制度 (本人の判断能力がある場合の対応)
成年後見制度とは、知的障害・精神障害・認知症などによってひとりで決めることに不安や心配のある人が、いろいろな契約や手続きをする際にお手伝いする制度のことです。
成年後見制度には、任意後見制度と法定後見制度があります。
特に大事なことは、本人の判断能力があるうちに手続きが出来る制度が任意後見制度です。
本人が認知症などと判断され判断能力がなくなった場合の制度は、法定後見制度となります。

(1) 任意後見制度について
自分自身に判断能力があるうちに、認知症や障害の場合に備えて、自分の信頼する相手(家族、親族、専門家、法人など)と後見人として契約しておく制度です。
本人と後見人になる人が公証人役場で公正証書を作成して契約を結びます。
任意後見制度の契約内容は「後見登記事項証明書」に記載されます。

※ 任意後見制度の利用に向いている3つのパターンを紹介します。
① 子供がいない夫婦+親戚が少ない+要介護
➁ 独身+親は既に他界+兄弟姉妹もいない
③ 子供が海外など遠方にいる+親戚が少ない
以上のような方は、ご検討を考えられたらと思います。

具体的には、下記の厚生労働省の動画をご視聴下さい。

https://guardianship.mhlw.go.jp/movie/c81/

任意後見契約公正証書の作成にかかる費用は、
  (作成の基本手数料)   11,000円
(登記嘱託手数料)    1,400円
  (登記所に納付する印紙代) 2,600円
(その他) ご本人に交付する正本等の証書代、
       登記嘱託書郵送用の切手代など

元気なうちは「自分は認知症にならない」と思い込んでいる人も多いですが、いざ認知症になった場合、家族あるいは親族への負担は、計り知れないものがあります。あまり費用もかからないので、早めの対応をおすすめします。

なお、注意点として厚生労働省の動画において、品川区役所 社会福祉協議会が任意後見人となっています。しかし、私が居住している愛媛県松山市の松山市社会福祉協議会に確認の電話を入れると担当者は、当協議会は任意後見人制度において任意後見人にならないとの回答でした。なぜ、任意後見人にならないのか理由を聞くと曖昧な回答しか返ってきませんでした。

上記において、任意後見制度の利用に向いている3つのパターンを紹介しましたが、頼る人がいない場合、社会福祉協議会に頼るのが一般的な考えだと思います。全国の市町村の社会福祉協議会の対応がバラバラのようです。

任意後見制度の利用を検討し、社会福祉協議会を任意後見人として依頼したいのであれば、自分が居住している地区の社会福祉協議会は、任意後見人になってくれるのか確認して下さい。

(2) 家族信託
「家族信託」とは、お金や不動産などの財産の管理や処分を、信頼できる家族に託する制度です。信託銀行などに財産管理を依頼するものだと誤解している人も多いですが、家族信託は家族の財産管理を家族で行う仕組みです。家族信託を始めるには司法書士や弁護士に依頼するのが一般的です。
<メリット>
財産凍結から守りたい親のお金をあらかじめ子に移す(=信託する)ことで、家族信託が開始した後に親が認知症になっても、そのお金は一切影響がありません。また、家庭裁判所は関係ないので、家族だけで財産を管理することが出来ます。
<デメリット>
他の制度に比べると初期費用が高いです。
<費用>
初期費用として、専門家に契約書の作成を依頼する費用が20万円~50万円程度かかります。
また、公正証書で作成する場合の公証人手数料として3~5万円程度かかります。

(3) 遺言代用信託
遺言代用信託とは、ご本人がご自身の財産を信託して、生存中はご本人を受益者とし、お亡くなりになった後は、ご本人の配偶者やお子様などを受益者と定めることによって、ご本人がお亡くなりになった後における財産の分配を信託によって実現しようとするものです。
<メリット>
遺産の受取人を指定できます。確実に財産を渡したい親族がいるときに活用できます。孫やひ孫への財産承継を指定できます。
遺産分割が完了していなくても信託銀行からお金を引き出せます。
<デメリット>
信託財産が金銭に限定されており、不動産や株式の信託はできない。また、最短でも5年程度の信託期間になりますが、原則的に途中で解約できません。
<費用>
契約手数料
「生前引き出し特約」を付けるときは信託金額(追加信託を含む)に対して2.2%(税込) 信託金額 20,000千円×2.2%=440千円
「生前引き出し特約」を付けないときは信託金額(追加信託を含む)に対して1.1%(税込) 信託金額20,000千円×1.1%=220千円

(1) 任意後見制度 (2) 家族信託 (3) 遺言代用信託 の説明をしましたが、家族信託、 遺言代用信託 は、費用もかなりかかり私は、あまりおすすめしません。

4. 認知症で口座凍結された場合 (本人の判断能力がない場合の対応)
(1) 金融機関個別での対応
認知症患者の増加に伴い、2021年 (令和3年) 2月18日に全国銀行協会は「金融取引の代理等に関する考え方」を発表しました。

https://www.zenginkyo.or.jp/news/2021/n021801/

この方針では基本的に、認知症の顧客の預金引き出しについては、成年後見制度の利用が求められています。
現在、金融機関では、個別対応により推定相続人からの念書を差し入れる、成年後見制度を利用するまでの短期間本部で認められた場合等、顧客の医療費などの使途に限り、親族が代わりにお金を引き出せるようにはなってきています。

(2) 法定後見制度について
法定後見制度とは、認知症、知的障害、精神障害などによって判断能力が不十分な方に対して、本人の権利を法律的に支援、保護するための制度です。
本人の判断能力の程度に応じて、後見、保佐、補助の3種類があり、判断能力を常に欠いてる状態の方には成年後見人を、判断能力が著しく不十分な方には保佐人を、判断能力が不十分な方には補助人を裁判所が選任し、本人を支援します。

この法定後見の場合、手続きは家庭裁判所(家裁) への申し立てからスタートします。
申し立てには、被後見人本人の戸籍謄本から始まり、申立事情説明書だの財産目録、親族関係図、親族同意書、医師の診断書など10種類以上の書類をそろえて提出する必要があります。
申し立てが済むと次に家裁で本人、申立人、後見人の調査などを行う「審理 (申立に問題がないことを確認) 」が行われ、「審判」を経て、「後見登記」にたどり着く。
このプロセスに2~4カ月かかるそうです。
当然、家裁への申立は、専門知識が必要なため司法書士あるいは弁護士に委ねることになります。弁護士費用については、15万円~20万円程度ですが、実際は弁護士によって異なります。
具体的な費用をしるためにも一度弁護士に相談することをおすすめします。

法定後見の申立費用については、項目ごとに以下の通りです。

費用項目金額
申立手数料800円*保佐・圃場の場合、代理権・同意権の申し立てをする場合は+800~1,600円
登記手数料2,600円
登記されていないことの証明書の発行手数料300円
切手代後見申し立て:3,270円保佐・補助申し立て:4,210円(裁判所によって異なる)
診断書作成費用数千円程度
住民票・戸籍の取得費用各数百円
鑑定費用5万~20万円*鑑定を実施する場合のみ
成年後見人の報酬額については、下記リンクをご覧下さい。

https://www.courts.go.jp/tokyo-f/vc-files/tokyo-f/file/130131seinenkoukennintounohoshugakunomeyasu.pdf

認知症などで口座凍結されると、銀行は成年後見制度の法定後見制度に基づいた対応を依頼してきます。そうなると、手間・費用・期間がかかることとなります。それを避けるために、代理人カードを作る、任意後見制度などを検討することが大事です。

この記事があなたにとって有益になれば幸いです。
質問とか意見等がありましたら、ご連絡頂戴できればと思います。



 

The following two tabs change content below.

yaruzou55

2018年1月、地方銀行を63歳にて退職。 後の人生を面白おかしく生きるために、ちょっぴり早いサンデー毎日の生活に突入。 これからの生活で気が付いたこと、感じたことを書き留めるためブログを始めることにしました。(^-^)